住み慣れた自宅へ・・・チームアプローチで目標を達成した体験談

はじめに

様々な施設で仕事をさせていただくなかで、たくさんの利用者さんやご家族と関わる機会がありました。その中で非常に困ったり、大変だった経験もありました。しかし、その分嬉しい体験もたくさんあるので介護の仕事はとてもやりがいを感じることができます。今回は数ある体験談の中でも、特に達成感を持つことができて記憶に残っている体験をお話ししたいと思います。

重度の利用者さんの入所。目標は自宅復帰!

私が介護老人保健施設に勤めていた頃、一人の利用者さんがご家族とともに入所されました。新しく入所されたAさんは非常に重度な障害をもっておられ、ほとんどの動作で重度の介助が必要な方でした。はっきりと言葉をしゃべることはできなかったのですが、こちらの伝える内容はある程度理解されていおり、嫌なことがあれば手を叩いたり、わずかにうなずく程度なら意思表示は可能でした。どちらかというと、動く意欲は低く、介助にも拒否的な傾向が見られる利用者さんでした。
病気の治療は終わったものの、重度の障害が残っているため、リハビリをしてもう少し動くことができればという理由での入所でした。しかし、ご家族はこれまで介護をされた経験はなく、ご利用者さんは高齢の奥さんと二人での生活でしたので、自宅で再び生活をすることは半ば諦めておられました。しかし、リハビリなどで少しでも動きが改善する可能性があるのならば、今後のことについて色々な可能性を検討していきたいとのことでした。

会議入所されて初めての会議がありました。Aさんとご家族、施設の職員(医師、リハビリ職、介護職、看護師、栄養士、相談員)とで今後の方針について話し合いました。そこで、ご家族がAさんに対する思いを伝えてくださいました。もしリハビリをして元気になったり、何か家に帰るために良い方法があるのならば、Aさんを家に連れて帰って、少しでも自宅で生活をさせてあげたいとのことでした。その理由を聞くと、自宅を設計したのはAさん自身であり、その縁側から見える自慢の庭の風景をとても気に入られているとのことでした。病気になってそのまま一度も帰れないのはかわいそうだと奥さんは涙ながらにお話しされました。奥さん以外のご家族も、Aさんの自宅への愛着をよく把握していたので、できる範囲で協力したいとのことでした。
それから、スタッフだけで会議が開かれました。まず、Aさんがどこまで動けるようになるかということで、医師やリハビリ職からの意見が述べられました。そこででた意見としては、今以上に動作が大きく改善することはないとのことでした。しかし、ほとんど寝たきりの生活から少しでも起きて生活するために体力をつけて、病気や障害がこれ以上悪化しないようにはできるとのことでした。
次に、ご家族がどの程度の介護を行っていけれるのか、相談員を中心に詳しく聞き取りを行っていきました。するともともと年金での生活で、Aさんの奥さん働いてはおらず基本的には自宅にいるとのことでした。また、その他の家族とも同居はされていないものの関係は良好で、時々顔を見せて体調など気にかけてくれるなど協力的であるとのことでした。奥さんはAさんが入院中も頻繁に面会に来られており、入所してからもできるだけ来るつもりであるとの情報も聞き出せました。
以上の情報を踏まえて、今後、リハビリなどでAさんの体力が向上して奥さんが介助の方法を習得し、二人で生活が行いやすいように自宅の生活環境を整備していければ自宅に帰ることは可能なのではないかという結論が出されました。

見えてきた希望。自宅への復帰まであと一歩

介助それから、Aさんが自宅に帰れるようにという目標で様々な取り組みが始まりました。介護職はリハビリ職と協力して、奥さんにパットの交換方法や体位変換、起き上がり、移乗などの基本的な動作の介助方法を伝えていきました。食事介助の方法や口腔ケアの方法も直接行ってもらいながらお伝えしていきました。ベッドに寝ている時間が長くなると体の機能は衰えていくばかりでどうしても体力がつかないため、看護師などと協力して体に無理のない範囲で座って過ごしていただくようにしました。座る姿勢もAさんが座りやすいようにリハビリ職と考えながら調整していきました。車椅子を調整したり座面にひくクッションを工夫したりしました。
すると徐々にAさんに変化が表れてきました。座っていてる姿勢の崩れが少なくなっていき、長い時間座っていられるようになりました。すると、介護の拒否も少なくなっていき、レクレーションにも参加され、手を動かすなどの反応も以前に比べてよく見られるようになってきました。
しかし、課題が出てきました。それは、奥さんが高齢であるため、普通にAさんの体位変換や移乗の介助をすると、いくら上手に行ったとしても負担が大きいということでした。そこで、奥さんでも使えるような福祉用具の導入を検討していきました。車椅子からベッドに移りやすくボードであったり、ベッド上で姿勢が変えやすいシートであったりと色々な福祉用具を使って介助方法を伝えていきました。すると、奥さんも徐々に要領を掴まれ、以前に比べて負担が少なくAさんの介助を行えるようになってきました。
その頃にはAさんが入所されて約2ヶ月が経過していました。そこで、再びAさんやご家族と施設の職員とで会議が開かれました。現在のAさんの状態と奥さんの介助方法の習得状況、ご家族の意思などを確認し、3ヶ月を目処に自宅に帰るという目標を再度確認しました。奥さんもいよいよ在宅の復帰が現実のものになってきたことに嬉しさとともに不安も感じられているようでした。そのため、今後自宅で使用できるサービスなどを伝えることで、自宅での介護が決して一人きりで行うものではなく施設と同様に様々なスタッフが連携して、Aさんと奥さんの生活を支えていくことを説明させてもらいました。そうすると、施設のスタッフの様子を見られているためか、「みなさんのような方々に手伝っていただけれるならできるかも」と自宅復帰への不安も少し和らいだ様子でした。

新たに見えた課題。自宅復帰へラストスパート

206887実は、Aさんが入所されて自宅復帰という目標が決まった際に、介護職やリハビリ職、相談員でAさんの自宅へ訪問に行っていきました。自宅の環境次第では、いくらAさんが元気になったり、奥さんの介助が上手になったとしても家に帰ることが難しくなってしまうからです。実際に住宅環境をみてみると、自宅復帰にはいくつかの課題がありました。玄関までに数段の階段があり車椅子でそのまま上るのは困難だということでした。また施設のようにバリアフリーが整い、十分な介助スペースが設けられている環境であれば、奥さんの介助も比較的負担なく行えていたのですが、自宅での環境は介助するためのスペースが狭かったり、不足している部分があり、奥さんの介助もうまくできない可能性があるという問題点も見られました。
そこで、入所して2ヶ月が経過した時点で、Aさんの状態や奥さんができる介助などを踏まえて、生活環境の調整をどのように行っていくのかを決めていくために、再度自宅への訪問を行いました。
ベッドの搬入の位置や車椅子での導線確保、段差昇降機の設置など様々な工夫を凝らして、Aさんや奥さんが生活しやすい環境を提案しました。住宅改修もする必要があったので、福祉用具事業所や建築業者を含めて費用などの見積もりも検討しながら、奥さんやご家族と相談していきました。すると、奥さんも自宅での生活がイメージできたのか、徐々に自信を持たれている様子でした。このころから、Aさんも自宅での生活が近いことがわかったためか、さらに動作介助に協力的となり、ますます元気になっている様子でした。
実際に自宅で使用することになる車椅子などの福祉用具は、デモとして施設の中でも使用できるように調整をしていきました。

見事に自宅復帰。介護職として最高の瞬間

スタッフ自宅への訪問から1ヶ月間となり、残った課題を解消しながら自宅への復帰に必要な準備を整えていきました。奥さんも私たちスタッフと見間違えるように上手にAさんの介助を行えるようになっていました。Aさんも入所時とは比べものにならないように座る姿勢がよくなり、長い時間座る体力もついていました。しっかり起きて生活をしていたため体力もついたのか、病状も悪化することなく、体調も良い状態を保たれていました。退所直前には福祉用具をデモとして自宅に導入してもらい、退所後の自宅と同じ環境で試験外泊を行いました。やはり、奥さんにとっては初めて自宅での介護を行うということで、施設での介護と勝手が違う部分はあった様子でした。それでも、十分に練習されておられたことが自信にもなっていたため、「これなら家に帰っても大丈夫」という感覚を得られた様子でした。
そして担当のケアマネージャーや自宅に帰った後に使うサービスも決定していき、いよいよ自宅復帰の日時が決定しました。施設内で最後の会議が開かれ、自宅復帰後のサービス担当者が集まって情報交換を行ったり、Aさんやご家族に自宅での生活を送る上での注意点を最終確認しました。
そして、自宅へ帰られる日、奥さんがスタッフに「この歳で夢が叶うなんて思ってもみなかったです」と涙を流しながらに感謝してくださいました。
そして、入所された直後は姿勢を保てず大きな車椅子に横になっていたAさんがしっかりとした姿勢で車椅子に座られ、手を振ってくださりました。スタッフはAさんや奥さんの喜ばれる姿を見て本当に嬉しい思いでいっぱいでした。
また、チームのみんなで連携をはかり、それぞれの専門性を生かしながら取り組んできたことで、いつも以上の達成感を得ることができました。介護の現場では、職種によっての上下関係はありません。医師も看護師も介護職もリハビリ職もみんなそれぞれの専門性を持ったプロフェッショナルなスタッフです。
今回の経験で連携することの大切さを改めて感じることができました。これからも、各職種が切磋琢磨していき、お互いを尊重しあいながらチームアプローチを行っていくことで、少しでも多くの利用者さんの希望を叶えていきたいと思います。

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