特養におけるユニットケアの現実

ユニットケア

ユニット80床完全個室の特養に努めています。
ユニットケアを行うことを目的に、それぞれのユニットが完全に独立する形で、10年前に建てられた施設です。
各居室、各ユニットの共有スペースも広くて、設備も新しく環境は整っています。
1ユニット入居者10名×8ユニットで、各ユニット正職員4,5名、日勤帯だけのパートさん1,2名の6名体制で、
廊下を隔てて隣り合う2つのユニットは勤務なども互いに融通し、協力しながら仕事をしています。
ハード面は恵まれた環境だと思いますが、職員・入居者がユニットに分かれていて従来型に比べてどうしても非効率になってしまうし、それを補うだけの職員数が集まらないので、中で働いている人は大変です。

 

基本的に朝食の時間は一人、1vs10の闘い

各ユニットには7:00~16:00勤務の早出が一人いますが、朝食の時間はたいてい早出が一人の状態です。
早出を増やす人数的な余裕もなく、日勤が来るのは8:30~です。
食事介助が必要な方が3人以上いると朝から地獄を見ることになります。
中には全員自力で食べられる、というユニットもあるのですが、自ユニットを空っぽにはできず、大変なユニットの応援に行くわけにもいきません。
介助が必要な人は口に溜め込みがあったり、飲み込みが遅かったり、食事拒否があったり、
一筋縄では行かない人が多く、一人あたり30分はかかるケースが多いです。
口腔ケアそれに加えて、早く食べ終わった方の服薬や口腔ケア、トイレ誘導もこなさなければなりません。
早く食べ終わった人を待たせるわけにも行かず(待ってくれる人なんてほとんどいませんが)、その間食事介助は中断します。
一人で同時に二人の食事介助を行う「二刀流」を使う手もありますが、誤嚥などのリスクが怖くてできません。
そもそも、服薬・トイレ誘導・口腔ケア・コール対応などで五刀流、六刀流状態ですから…。
配膳は7:30なのに、最後の方の食事介助を始めるのが9:00なんてこともザラにあります。
食事は衛生面への配慮から、「配膳2時間以内に食べ終わること」とされています。
厨房の配膳時間は7:30から動かせないのでリミットは9:30、ギリギリです。
というかオーバーしていることも、ままあります。
ちょっと朝寝坊して遅めに朝食なんて、難しいです。
配膳までになるべく起きてもらって、配膳時間にみんなで一斉に食べ始めて、なるべく早く食べてもらって…なんて考えています。
早く起きてもらうために、早出も6:30くらには出勤しています。
せっかくのユニットケアなのに、個別ケアも何もないですね。

入浴も時間との闘い、そして浴室争奪戦

日勤パートさんが来ると、少しだけ余裕が生まれて入浴介助が始まります。
入浴中はユニットに一人は見守りを残す必要があるので、職員数に余裕のある時間帯、実質9:30~16:00くらいで
昼食時間11:30~13:00を除いた5時間で全ユニットの入浴を終わらせることになります。
「朝食の時間をうまく乗り切って、出来るだけ早く入浴介助を始めないと…」と早出の気持ちは焦っています。
どの浴室を、誰が、いつ頃使うかの浴室マネジメントも非常に難しい問題です。
1日の入浴人数は各ユニット2~4名、8ユニットで20~28名くらいになります。
浴室は普通の家庭のような浴室が2つ、リフトチェアに乗って入れる浴室が2つ、寝たまま入れる特殊浴槽が2つの6か所です。
入浴予定者は前日のうちに全ユニットで情報を共有していますが、当日の入居者の体調、希望なので予定が変わることもあります。
各ユニット内線でコミュニケーションを取りますが、他のユニットの状況を完全に把握できるわけではないので、
入浴希望時間が重なり待ち時間が発生することもあります。
また、ある程度経験のある職員でないと、他ユニットとの交渉も難しく、自ユニットの入浴が遅れてしまうケースもあります。
結局、職員の人数が多い時しか入浴はできないんですよね。「晩飯の後に風呂に入りたい」「朝風呂したい」などの入居者の願いは
かなえることができません。介助者と入居者が一対一で入浴すること以外は、従来型とあまり変わりません。

催しや行事もやっぱり昼間

慰問13:00~22:00勤務の遅出が出勤してくると人数には余裕が出てきます。
全体レクリエーションや行事などは14:00~16:00で行われます。
一番職員が多い時間帯ではあるのですが、入浴が終わってないと早出は動けないし、遅出はユニットに残って業務を行わないといけないので
各ユニットからレクリエーションに人員を割くのも大変です。
入浴を終わったばかりの早出が風呂掃除も終わってないのに、クタクタの体にムチを打ってレクに参加し、記録を後回しにして残業する…
なんてこともあります。
職員の数や食事との関係上、レクリエーションの時間をずらすのも難しく、「夜にどこか出かけたい」などの利用者の要望を叶えることは困難です。
夏祭り、バーベキューなど夜に企画されるものも年に数回ありますが、職員は残業必至です。

寝るのは早い、遅出のゆっくりとした時間

17:30に夕食が配膳され、夕食を食べ終わると多くの方は自室に帰られます。
19時からは遅出一人になり、特に面白いこともないので早く休みたい、と考える利用者が多いのです。
20時頃にはフロアには誰もいなくなり、遅出は業務終了後の22時まではコール対応で待機しているだけの状態になります。
それでも、その間に夕食を摂ったり、記録をこなしたりと遊んでいるわけではないのですが。
目まぐるしく動き回る早出とは一転、遅出にはゆっくりとした時間があります。

夜勤は一人、仮眠なし!

夜勤夜勤帯の22:00~7:00は職員は2つのユニットに一人の体制になります。
2時間おきの体位交換や、一晩に各1~2回のおむつ交換、コール対応にあたりますが。
不眠者・不穏者がいなければ業務は一人でも可能なのですが、仮眠はなく居眠りすら許されないのです。
担当のユニットに離園する恐れのある方がいたら最悪です。
コール対応やオムツ交換などで居室に入っている間は、フロアや廊下の見守りは誰もいません。
業務中はずっと、不穏になり施設を出ていくんじゃないか?とビクビクしています。
各出入り口には一応センサーはありますが、鍵を開けて外に出るのは容易にできます。
離園は気づくのが遅れると、真夜中の大捜索になってしまうので、夜勤者のプレッシャーは相当なものです。
9時間拘束で実働8時間、休憩は一時間ある計算なのですが、1時間以上は暇な時間があるでしょ?ってことで
ちゃんと休憩としてとれる時間はありません。眠気との闘いです。

ユニットケアは各ユニットで独立しているので、協力体制を作るのが難しいです。
他のユニットの状況が見えず、どれだけ大変かがわかりにくいため応援要請が来ても「えっ、今うちのユニットも大変なのに…」と
自分のユニットを守る気持ちが出て、他ユニットの応援に消極的になってしまいます。
勤務、業務に偏りがあるのでは?と感じながらも現状維持が精いっぱいで、モヤモヤしながら日々仕事をしています。

職員がなかなか集まらない

職員数に余裕があり、1ユニットを二人で見る夜勤ではなく、2ユニットを3人で見ることができる体制になれば、
夜勤中に休憩が取れるようになるのですが、現実的には難しいです。
そうなると夜勤は仮眠なしが前提となり、夜勤の時間が長い二交代制ではなく三交代制を採用せざるを得ません。
三交代制のデメリットは、早出、遅出、夜勤が主となり、日勤がほとんど取れないことです。
これが求職者にかなり敬遠されます。いくら介護が24時間必要な仕事といっても、そりゃあみんな自分は日勤帯で努めたいですから。
結婚して子供が出来て、子供の行事や地域の行事に参加するようになると本当に切実です。
世の中はみんな昼間仕事して、土日休みが当たり前のつもりで行事が組まれますから。
特にパートさんは顕著ですね。土日勤務可で早出、遅出ができるパートさんを募集してもまず応募はありません。
これを、日勤帯にして6時間勤務などで募集をかけると、すぐに応募はあります。
まあどの時間帯のパートでも同じ時給で募集をかけるうちの施設にも問題があるのですが…。
正職員にしても、早出と遅出には手当もつかず、8:30~17:30の事務員と待遇が同じというのはモヤモヤするところです。
さらに夜勤手当ですが、二交代制に比べて拘束時間が短いので三交代だと手当が安い傾向にあります。
三交代制は求職者に敬遠されて人が集まらず、いつまでたっても職員の数が足りないという悪循環に陥っています。
ハローワークにずっと自分の勤めている施設の求人が出っ放しというのは、中で働いている人は良い気持ちにはなりません。
サービス残業前提で勤務終了後に会議をしたりしないし、時間外手当はちゃんと出るし、全くブラックな施設ではないんですが…。

ユニットケアは職員の勤務が組みづらい

04469810人1ユニットだと、1ユニットの職員は大体6人、隣のユニットも合わせると職員は12人でそのうち夜勤もできる人は8人といったところです。
従来型のように25~30名くらいの職員が一塊だと、人数の少ない日でもフォローできるので勤務は組みやすいのですが、ユニットに分かれて職員の塊が小さくなればなるほど勤務は組みづらくなります。
同じ日に休みの希望が5名重なっただけでも、勤務作成者は慌てふためいて休み希望者に調整をお願いしなくてはなりません。
子持ちの職員が多いと運動会シーズンやお盆、正月が特に苦しくなります。
こういう時は結局、独身の若い職員にしわ寄せが行ってしまうんですよね。
結婚式に同じユニットの同僚を招待、とかユニット内職員みんなで忘年会、など望むべくもありません。
多くのユニットの業務を兼務できる職員を育てれば手薄なところのフォローに回れるのですが、個別ケアを進めていると利用者ごとに介助方法は様々で覚えるのにも一苦労で、育成するにしても人員の余裕が必要なので
なかなか進んでいないのが現状です。

人間関係が狭くなりがち

1ユニットの職員数は少ないですから、苦手な職員がいるとストレスが溜まります。
これは仕事と割り切れば済むのですが、問題は利用者間のトラブルも回避しにくいことです。
利用者側は「終の住処」として当施設を選ばれているので、家族も含めてユニットの移動、居室の移動には否定的です。
施設側もよほどのトラブルがない限り移動の検討もしないので、利用者間でトラブルがあれば「現場でなんとかして」となるわけです。
私の勤務するユニットには「ボス」と呼ばれる男性利用者がいます。
リビングのテーブルのひとつを独り占め、テレビのチャンネル権は渡さない、難聴でテレビは常に大音量で注意する者には凄み文句をつけてくる他利用者には大声で威嚇、気に食わないことがあると事務所まで行き相談員に大声で怒鳴り散らす、という方です。
他の利用者はすっかり萎縮して成されるがままの状態、職員もトラブルになると事務所に駆け込まれてしまう→評価が下がってしまう、下手するとクビ?とビクビクしています。これほどの方でも移動もできず、ただやり過ごしている状態です。
同じユニットの利用者は大変です。

従来型の施設=悪、ユニットケア=良いもの、としてユニットケアは持て囃されていますが、中では多くの苦労があります。

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