介護現場で見たいびつな人間達

人間関係

どんな業界でも社員同士のいじめや人間関係の問題はあると思います。
しかし、簡単に解決することができず、精神的に病んでしまい、そのまま退職した人。最悪の場合、自殺してしまった人もいます。
亡くなってから労災認定され、いじめていた人間が許しを請いても、亡くなった人は帰って来ません。
医療・介護業界でも様々なスタッフが患者さんや利用者さんの為に働いています。毎日、仕事の為に努力をする人もいれば、日々の忙しさの苛立ちやストレスを患者さんや利用者さんに向ける人も残念ながらいます。

今回は、今迄に私が働いてきた職場の中でのいじめや虐待について、個人情報に触れない程度でお話させて頂きたいと思います。

介護老人保健施設で働いていたA子さん。

まずは、上司を殴って辞めたA子さんの話しから。
私が、介護老人保健施設で務めていた時の話です。
当時、私はまだ介護士としての経験が浅く、この施設でも入りたての新米だったので、仕事を覚えることに必死でした。A子さんは周りのスタッフの中でも、大人しく、黙々と仕事をしている人でした。
私の入社一か月後ぐらいに、A子さんが退職することを知りました。
退職する理由は人それぞれあるし、A子さんにも何か事情があってのことだろうから、驚いた、という気持ちより、今迄お仕事お疲れ様でした、という労いの気持ちのほうが大きかったのを覚えています。

しかし、退職日当日――事件は起きたのでした。
仕事中に「ドンッ」と大きな音が聞こえたのです。この時、私は利用者さんのトイレ介助とコール対応をしていました。きっと誰かが何かを落としたんだろう、としか思っていませんでした。しかし実際は、A子さんがフロアリーダーである男性介護士のCさんを殴っていたのです。Cさんが殴られた時に倒れた音だったのです。

怒り狂うA子さんはその場を去り、夜勤明けで帰る間際だった男性介護士のDさんにも背後から殴りかかろうとしたのです。しかし、とっさにA子さんの攻撃に気づいたDさんは怪我をすることはありませんでした。Dさんは冷静でした。女性であるA子さんに力で負けるとは思っていなかったのでしょう。
Dさんは「何が不満だったのか?」「今更そんなことをして何になるのか?」「警察沙汰になっていいのか?」とA子さんに問いたそうです。
A子さんはDさんに今迄の不満をぶちまけたそうです。「私が、こんなことをしているのもアンタ達のせいだ」と。
私が入る前から、この施設で働いてきたA子さんには苦悩が重なっていたのでしょう、それからA子さんはその場を去って行ったそうです。

正直、驚きました。そんなドラマみたいな話があるのものなのか?!と。
フロアリーダーのCさんには顔にあざが残りましたが、骨折など重傷に至りませんでした。結局、この時、施設側は警察に通報することもなく、これ以上表沙汰にならないようにしていました。CさんやDさんも、A子さんの上司として彼女がこんな事をするまでに思い詰めていたとは思っていなかったそうです。

その後、この件は内密にすることとなり、出勤時にスタッフが出入りする扉の暗証番号はすぐに変更されました。

利用者や家族にいじめられて退職したB子さん

有料老人ホームで勤めていた時の話です。
そこの施設は、入居一時金1000~1500万円、毎月の費用に20万円する、いわゆるセレブ高齢者が集う場所でした。
そんな施設で出会ったB子さん。B子さんとは入社時期が一か月違うだけでしたが、他のスタッフより大人しく、黙々と仕事をしている人でした。
しかし、2,3か月経った頃、私はB子さんの異変に気付きました。
「B子さん、なんか痩せました?」ぽっちゃり体系だった彼女の頬は痩せこけていて、お腹や足も少しほっそりしたように思ったからです。私は何気なしに聞いただけでした。
聞けば「固形物が食べれらない」というB子さん。
「何かあったんですか?」と聞くと、ある利用者さん2人の名前が出てきました。

一人は利用者Eさんです。実家で一人暮らしをしていましたが、病気で身体に麻痺が生じて一人暮らしをするのが難しくなり、しぶしぶ施設へ入居を決意されたそうです。
かんしゃくもちであるEさんの怒鳴り声は、この施設で働くスタッフにとっては日常の事でした。私も何度か「へたくそ」「私の言ってることがわからないの?頭の悪い子ね」と言われることはしばしばありました。Eさんも好きで施設にいるわけではない。可哀想な人なのだ、と思い、耐えていました。その点はB子さんにもわかっていたそうです。

B子さんが言うには、入浴介助の時だったそうです。
有料老人ホームでは、介護老人保健施設などと違い、お風呂の時間を一人ずつ確保されます。だいたい45分~1時間ほどです。
一人の利用者さんに対して、一人のスタッフが付きっきりで介助します。利用者さんの体調に合わせて、スタッフが二人介助で行うこともありますが、フロアにもスタッフが滞在しなければいけないので、二人が付きっきりというのは困難でした。

Eさんは事細かに入浴介助の手順を自分でスタッフに指示をする方でした。私もB子さんも先輩スタッフに教わって、Eさんが希望する入浴介助の仕方を必死で覚えていました。

ある日、Eさんの入浴介助をBさんが一人でしていた時の話です。

「アンタ、カスやね」
「アンタみたいなカスに介助されるなんて、他の人も可哀想。誰か他のスタッフに代わってもらえないの?」
以降、人前では言わず、B子さんが一人の時に言われることが多くなったようです。

「へたくそ!」
「アンタみたいな子、とっとと辞めたらいいのよ!」
B子さんは、Eさんが求めているように、その都度介助しているつもりでしたが、あまりにも怒鳴られるので、先輩スタッフに相談に乗って貰ったそうです。先輩スタッフが一緒にB子さんの介助をみたのですが、問題なかったそうです。

しかしまた、B子さんが一人で介助するたびに、Eさんに怒鳴られる日々が続きました。B子さんはだんだんEさんの部屋に入るのが怖くなっていきました。

介護者の親族次に、もう一人の利用者Fさん。
厳密に言えば、Fさんの息子さんがやっかいな方でした。
息子さんはお母さんであるFさんに会いに、毎日、よっぽどの用事がない限り9時から18時までお母さんのもとを離れることはありませんでした。傍から見れば、息子さんはとてもお母さん想いの優しい男性に見えると思います。

そんな息子さんの何がやっかいだったのか?
服やタオルは100%同じ場所に置く事。
Fさんに提供するジュースは日付の通りに渡すこと。
Fさんを介助する時は、入浴介助以外は息子さんの監視のもとに介助すること。

これらに関しては、お金を頂いている以上、当時、”川崎老人ホーム転落死事件”が起きたばかりの時期だったので、信頼を勝ち得るまでは致し方がないと思っていました。
Bさんも先輩スタッフから「息子さんは気難しい人だからあまり気にしないで」と言われていたので、最初は気にしないようにしていたそうです。

B子さんの苦痛は、息子さんの指示するようにうまく介助が出来なかった時に
「どんくさいな!お前みたいなのが何で、ウチの母親に介助に来るんや!」
と背中や肩を叩かれること。女性であるEさんが怒鳴るのと違い、男性であるFさんの息子さんに怒鳴られることに、その場で泣いてしまうことがありました。また息子さんに「何で泣く?俺が他のスタッフに怒られるやろ!?」と言われたそうです。

B子さんや私が入職する前から、Fさんの息子さんは、同じフロアの利用者さんの間でも悪い評判でした。
「いつも怒鳴っている」
「共有フロアを我が物顔で使っているのに、誰も注意しない」

B子さんは泣いて、先輩スタッフに相談したそうです。最初は、相談に乗っていた先輩も、人手不足になるにつれて、B子さんの相談に乗ることに余裕がなくなり、「息子さんの前で泣く、B子さんが悪い」「本当は何かあったから、息子さんも怒るんじゃないの?」と言われたそうです。

それから、また数か月経った頃に、B子さんは職場で過呼吸を起こすようになりました。
2,3日に一度、ふとした拍子に言われたことで、1時間以上過呼吸が止まらずにいました。
B子さん本人に改めて大丈夫?と聞くと、
「精神安定剤や眠剤飲んでいるけど、寝れないし、職場でこんな状態だったら情けないよね」
と苦笑していました。

結局、B子さんは、半年後にこの有料老人ホームを退職しました。
毎月、一人ずつスタッフが退職していたので、B子さんは施設長に退職を止められていたそうですが、もう耐えられないから辞めさせてほしいと懇願したそうです。

それからはB子さんは、精神科に通院しながら、他の仕事に就いているそうです。

虐待の定義とは何か?

世間のニュースでは”相模原殺傷事件”や”川崎老人ホーム転落死事件”が、人の記憶に真新しく残っていると思います。しかし、それら以外にも、日常的に利用者に対しての肉体的な虐待のほか、衣服を清潔に保たない、日常を過ごすのに当然の食事や入浴を提供して貰えていない、などの精神的な虐待があります。
逆にスタッフに対しての虐待もあります。私も精神病の人から首を絞められたり、殴られたりすることは時々ありました。そして、今回ご紹介したA子さんやB子さんの話も事実です。

介護をするのは、現場にいる介護士です。
勿論、それだけのお金を頂いて働いているわけですが、悩んでいる介護士に対して、話を聞いたり、一緒に解決策を考えることができない職場であれば、きっと新しいスタッフが入職しても、続けることは難しいでしょう。

介護とは決して苦痛に感じるだけの仕事ではないと思っています。
もっと多くの人に介護士の魅力を感じてもらうには、運営側の施設にもスタッフの管理や教育方法などを見直して頂きたいと思いました。

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