私の祖父がデイサービスを利用していた時の話

デイサービス

私の祖父がデイサービスを利用していた時の事をお話させていただきます。

膝の痛み祖父は、祖母と共に長年畑仕事をしてきた人で、具合が悪くても頑として医者に行かない頑固な性格の持ち主でした。

かなり前から足の具合が悪くなりましたが、医者に行くのをとにかく嫌がっており、数年前からついに膝の曲げ伸ばしや歩行に支障が出るほどに足が悪くなってしまいました。

もちろん、畑仕事は出来ず自宅で閉じこもりがちになり、お風呂にも自分で入れない状態になり困っていました。

 

自宅で満足な介護が出来るわけではないので、せめてどこかでお風呂に入れてもらう事は出来ないかという事で、デイサービスの利用を考え始めました。

相談祖父の性格的にも、自宅から遠い全く知らない土地よりは、少しでも土地勘のある自宅から近いところが良いのではないかという話になりましたが、当の祖父は「そんな所には行かない」と言い張っていました。確かに、デイサービスで和やかにほかのお客様と談笑する祖父は想像がつきません。渋る祖父に、祖母と母が2人がかりで説得をして、何とか自宅から一番近いデイサービスへの利用申し込みをしました。

祖父の状態を見にきて下さった相談員の方が親切な方で、介護のことが全く分からない祖母にも分かりやすく説明して下さってありがたかったと祖母が話していました。

デイサービスの1日の流れからレクリエーションプログラムの説明、入浴の設備などの話を聞いて、祖母は乗り気でしたが、祖父は終始無言を貫いていたそうです。ただ、契約書がたくさんあり、わかりにくい難しい言葉も随所にあって、ただ聞いているだけでは理解が出来ない内容です。相談員の方にたくさん質問をして、何とかサービスについて把握できたという状態でした。相談員さんに祖父の状態を見ていただいたところ、つかまれば何とか歩けれど歩行が不安定との事で、車いすで送迎をしていただく事になりました。

 

ショートステイいよいよデイサービス利用当日になりましたが、祖父は相変わらず乗り気ではない様子。とにかくお風呂だけ入ってきたらどうかと伝えて、祖父を送り出しました。

心配した母が少しだけ利用中の様子を見に行きましたが、案外楽しそうにしていたと話していました。心配しながらも時間は過ぎ、自宅に帰ってきた祖父は「良かった」と話していました。

 

祖父が利用することになったデイサービスは、日帰りであるデイサービスと、宿泊もあるショートステイが併設された施設でした。

デイサービスの利用人数も少なすぎず、多すぎない人数だったので、人見知りの祖父にも比較的溶け込みやすかったようです。

デイサービスに到着して、案内された席に座るとすぐに何人かの職員の方が挨拶に来て下さり、好みの飲み物を聞いて下さったそうです。職員の方と話をしているうちに体温や血圧が測られ、あっという間にお風呂の時間になりました。

様子を見に行った母が、きっとお風呂の拒否をするだろうと見守っていたそうですが、やはり祖父は「入らない」と言ったようです。

母が何かを言うより先に職員の方が、やんわりとした口調で祖父をお風呂に誘ってくださいました。直接「お風呂に入ってください」と言うのではなく、

足が痛くても入れるお風呂があり、歩かなくても良いですよ、と言って下さったそうです。それでも拒否する祖父に対して、どんなお風呂か見るだけ見てみませんか?と

促して下さり、車椅子に乗ってお風呂場を見に行きました。

母はデイサービスのホールで待っていたそうですが、少し経ってから職員の方が来られ、祖父がお風呂に入ったことを教えて下さったそうです。車いすのまま座ってお風呂に入る事ができる浴槽で、服を脱ぐのを面倒がっていた祖父ですが、職員の方が手伝ってくださる事で、渋々ながらもお風呂に入ったそうです。職員の方から事情を聞いて安心した母は、そのまま帰宅しました。

 

母は介護に関して全く知識もないため、デイサービスというと、保育園の大人版のような場所を想像していたようです。実際に現地を見てきた後に話していた事は、「子供をあやすような話し方の人は1人もいなかった」「同じ事を何度も繰り返し話す人ともしっかり向き合って、根気よく対応していた」と感想を話していました。デイサービスに対する印象がすっかり変わったようです。

 

夕方になり、デイサービスから帰ってきた祖父から話を聞くと、車椅子に座ったままで入れるお風呂があって楽だったと言っていました。

服を脱いだり着たりするのも面倒がってしまう祖父ですが、職員の方が手伝って下さり、膝も楽で良かったと話していました。

食事も栄養バランスが考えられた献立な分、薄味だったと言っていましたが、祖父の好きな魚料理だった事が嬉しかったようです。

ご飯を食べたらゆっくり昼寝ができる時間があり、午後からレクリエーションも時間もありました。

もともと、祖父はあまり社交的な性格ではないのですが、ほかのお客さんの方から祖父に話しかけてくれて、一緒に楽しくミニゲームを楽しむことが出来たそうです。

思っていたより、あっという間に時間が経ち、おやつも用意していただいたそうです。

ちょうどその日が季節の和菓子を提供する日だったようで、見た目も美しいおいしい和菓子を食べることが出来たそうです。

 

楽しかった様子が伝わってきたので、きっと喜んでデイサービスに通ってくれるのだろうと思っていましたが、「もう行かない」と口では言っていました。

次の利用日に職員の方が迎えに来て下さり、はじめは「行かない」と話していた祖父ですが、職員の方に説得され、仕方がないといった様子で車いすへ座り、デイサービスに出かけていきました。

まだ利用は2回目、もう嫌だと言い出すのではないかと心配そうな祖母。祖父と離れている間は自分の時間を過ごしても良いのだと母が伝え、たまにはゆっくり過ごす事を提案していました。

 

散歩デイサービスから帰ってきたとき、送って下さった職員の方が「今日は施設の外を車いすで散歩しました」と教えてくださいました。車に乗っての外出はなかなか難しいようですが、天気が良い時には散歩を兼ねて施設の外へ出る事があるそうです。普段は外に出る事がないお客さんも大勢いるようで、みなさん喜ばれていたと職員の方が教えてくれました。施設の外に小さな畑があり、種類は少ないですが花や野菜を育てているそうです。畑を見た祖父は、土の質や野菜の植え方を職員の方に教えたようで、生き生きとした表情をしていたそうです。

帰宅した祖父に祖母がその日の様子を尋ねると、ぽつりぽつりと話してくれました。

デイサービスは特別楽しくもないけれど、あの畑は全然だめだと。もっと手入れをしないと良い野菜は育たないから、今度は植え方から教えてやるのだと、少し嬉しそうに話してくれました。

帰宅すると必ず「もう行かなくていいな」と言うものの、少しずつ顔見知りも出来てくると、デイサービスに通うのを楽しみに待つようになりました。

 

祖母や母とも、宿泊できるショートステイが併設されているから、いざという時も安心できると話していました。私たち家族は、送迎時に職員の方から話を聞いたり、利用中の様子が書かれた連絡帳を見たりする事でしか、デイサービス利用中の様子が分かりません。連絡帳は、該当するものに○をつけるだけのシンプルなもので、そこから様子を把握する事は難しいです。だからこそ、祖父が笑顔で通ってくれる姿をみると、家族としても「ここを利用することに決めてよかった」と思えます。

普段、祖父の面倒ばかり見ている祖母も、祖父と離れる時間が出来た事で心配ではあるものの、自分の事をゆっくりとできる時間が取れて休養になっているようでした。

 

そのデイサービスに1年ほど通った頃、体調が悪くなり、祖父は入院してしまいました。しばらく闘病生活を送り、もしかしたら自宅に戻れるかもしれないという時に、急に容体が悪化してしまい、祖父は帰らぬ人となりました。帰宅できるかもしれないという話が出た時に、医師からは自宅での生活は難しい状態だから、入所できる場所を探した方が良いかもしれないという話が出ました。しかし、祖父は自宅以外で生活する気は全くなく、そんな祖父の希望を汲んで、祖母も母も自宅で祖父を受け入れようとしていました。自宅での入浴は無理だと話が出たときに、祖父の口からデイサービスでお風呂に入りたいという言葉が出てきて驚きました。祖父の中では、あのデイサービスがいつしか憩いの場所になっていたようです。

短い間でしたが、最後に楽しく過ごせる場所を見つける事が出来て、祖父も幸せだったと思います。

介護のサービスが人の心に寄り添ったものになると、こんなにも心強く感じるのだと思いました。

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